
「幸若舞は室町時代に発祥し、戦国大名に庇護され、特に織田信長をはじめ豊臣秀吉・徳川家康など、時の権力者に好まれました。幕末になると、時代の流れや趣味の変化などにつれて次第に衰え、発祥地の福井県丹生郡朝日町(現越前町)でも明治維新後に絶えましたが、本市の瀬高町大江地区では、『大江のめえ』とよばれて国内で唯一、昔の姿をそのままに伝えています。」福岡県みやま市が、2026年1月に報道機関へ配った案内に添えている説明です※1。
芸能は、それが生まれた土地でいちばん長く続くものだと、私は考えていました。
ところが、舞が生まれた福井県越前町は、2025年12月号の広報にこう書いています。「現在、この舞の原型はみやま市瀬高町の大江地区にしか残っていません」※2。生まれた町のほうが、自分の広報で大江の名を挙げているのです。
では、この町は、何を、どう繰り返しているのか。
手がかりは、市が小学校のグラウンド跡に建てた施設の名前です。「ルフラン」、フランス語で「繰り返し」を意味します※3。舞は1787年に伝わり、いまは1月20日の奉納が毎年続いています。舞の縁は、越前町の子どもを秋に迎え、冬に訪ねる往復になりました。閉じた小学校の校舎と台所の生ごみは、もう一度使われています。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、
- 1787年に伝わった舞を、1月20日に毎年舞う
- 秋に迎え、冬に訪ねる、越前町との往復
- 閉じた校舎と台所の生ごみを、もう一度使う一年
という3つの柱を、住む人の暦も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この町は「何を、どう繰り返しているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。
みやま市の幸若舞|1787年に伝わった舞を、1月20日の舞堂で
一つ目の柱は、1787年に伝わった舞を、1月20日に毎年舞うことです。
舞が大江村に伝わったのは1787年、と市は書いています※4。国の重要無形民俗文化財になったのは、それから190年ほどのちの1976年です※1。
奉納は毎年1月20日の正午から、大江天満神社の境内の「舞堂」で、幸若舞保存会が行います※1。3人が並んで扇を持ち、長い物語を分け合って語る芸だ、と文化庁の文化遺産オンラインは説明しています※5。
市は毎年、報道機関への案内に、その年の演目と舞う人を載せています。5年分を並べると、正午の一曲目は、毎年小学生が受け持っています(図1)※6。2025年までは、2曲目も小学生の番でした。
図1 1月20日、正午の一曲目(※6)稽古は秋の終わりの「小屋入り」から始まり、1月20日の奉納の日までほぼ毎日続く、とみやま市公式観光サイトは紹介しています。そのページで、青年部の一人はこう話していました。「どの曲も似たように聴こえるかもしれませんが、曲ごとに艶の付け方やタイミング、呼吸などが違うんですよ」※7。毎年同じ日に舞われる曲にも、曲ごとに違う呼吸があるようです。
青森県八戸市は年表に、1979年にえんぶりが国の重要無形民俗文化財になったことと、2019年に2月17日を「えんぶりの日」と定めたことを並べています※8。
みやま市と越前町|秋に迎え、冬に訪ねる、舞の縁の往復
二つ目の柱は、秋に迎え、冬に訪ねる、越前町との往復です。
旧瀬高町と旧朝日町は、1994年、幸若舞の縁で姉妹縁組を結びました。越前町には、幸若家の寺である龍生寺をはじめ、幸若家の歴史を伝える古文書や、物語を読み物にした「舞の本」が伝わっている、と越前町は広報に書いています※9。舞は大江に、文書は越前に残りました。
2025年の秋、越前町の子ども14人がみやま市に泊まり、みやまの子どもたちと一緒に、幸若舞の講話を聞きました※2。舞の生まれた土地の子どもが、その舞の話を、大江のある市で聞いたことになります。
図2 秋に迎え、冬に訪ねる往復(※10)冬には、向きが逆になります。越前町を訪れたみやまの子どもたちは、織田文化歴史館で「両市町をつなぐ『幸若舞』を学習しました」と越前町は広報で伝え、同じ3日間を「昨年秋に交流した町内の児童たちとの再会を喜び合いました」と書いています※11。
みやま市は広報で、この往復を「幸若舞が縁で毎年行われているもの」と紹介しています※12。秋に迎えた相手を、冬に訪ねる。その一往復が、毎年続いています。
北海道の上砂川町も、町を開いた人たちの出身地である福井市の鶉地区へ、隔年で小学生を送ると掲げています※13。福井へ向かう往復は、九州と北海道の町で、毎年と隔年の暦で続いています。
みやま市で暮らす一年|閉じた校舎と台所の生ごみを、もう一度使う
三つ目の柱は、閉じた校舎と台所の生ごみを、もう一度使う一年です。
広報みやまの2026年1月号には、年末年始のごみの表の下に、休みのあいだは臨時の生ごみ桶を「ルフランカフェ(旧山川南部小学校校舎前)」に置く、と書かれています※14。
同じ号のお知らせカレンダーの20日の欄には、「幸若舞(12:00~ 大江天満神社)」とあります※15。住む人に配られる1冊の広報の上で、校舎の前の桶と、1月20日の舞が並んでいます。
校舎のグラウンド跡には、市のバイオマスセンターがあります。名前の「ルフラン」について、市は、焼却していたものを再資源化し「繰り返し使用していこうと気持ちを込めて名付けました」と説明しています。建てる計画のとき、当時の市長は、廃校を生かすことで「懐かしい校舎が市民のための憩いの場として生き返るのです」と語ったと紹介されています※3。校舎はいま、日替わりの店長が営むカフェなどに使われ、利用者から開業・起業した人も「たくさんおられます」と市は書いています※16。
台所の生ごみは、燃えるごみと分けて桶で集められます。生ごみを入れる袋は買わずに済む、と移住定住サイトは案内しています※17。集めた生ごみはセンターで発電に使われ、液肥「みのるん」に生まれ変わります。みのるんで育った米「つやおとめ」などは学校給食に使われている、と広報みやまは書いています※18。
図3 台所の生ごみを、もう一度使う(※19)2026年2月14日には、MIYAMAXの環境講演会で「生ごみ分別アワード」の表彰がありました※12。収集のときに桶の中を確かめ、量と、プラスチックなどが混じっていないかを点数にして、上位の行政区を表彰する仕組みです。1位から5位の副賞は、リサイクルのトイレットペーパー「くすろーる」です※20。同じ筑後の大木町も、生ごみの分別をはじめ29種類もの分別に取り組んでいると書いています※21。
2026年6月の広報みやまで、環境の分野を受け持つ地域おこし協力隊の隊員は、みやま市の「地域でエネルギーを生み出す取り組み」に感動したことをきっかけに移住した、と自己紹介しています※22。移住の支援を使って越してきた人の声には、「九州の真ん中なのでどこにでも行きやすい。交通の便も非常にいい。」という一言もあります※23。
私の見立て|みやま市は、繰り返すことで残してきた市
モノサシの問いに、3つの柱で答え直します。毎年くり返すのは、1787年に伝わり、いまは1月20日に舞堂で奉納される舞と、秋に迎えて冬に訪ねる越前町との往復です。もう一度使うのは、閉じた校舎と台所の生ごみです。えんぶりの日を定めた八戸市にも、隔年で福井へ向かう上砂川町にも、それぞれの町の暦があります。
私の見立てはこうです。みやま市は、繰り返すことで残してきた市です。2026年1月、市は舞の案内に「受け継がれた240年の芸能 今に伝える」と見出しを付けました※4。その月の20日、舞堂では「日本記」などが上演された、と広報みやまは伝えています※24。
図4 1月20日の舞を、繰り返し残す(※24)みやま市を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬・住まいの支えの要点
| 項目 |
数字 |
| 人口 |
33,609人(2026年)※25 |
| 世帯 |
14,613世帯(同)※25 |
| 農業 |
13.6%(2020年)※26 |
| 製造業 |
15.0%(2020年)※26 |
| 医療・福祉 |
16.6%(2020年)※26 |
| 1月の日最低気温 |
1.2℃(大牟田)※27 |
- 2025年の1年は、転入899人(国内775・国外124)、出生145人、転出1,063人、死亡662人でした※25
- 暮らしの場所: JR瀬高駅と渡瀬駅の周りにスーパーやドラッグストアが集まり、車があれば買い物には困らない、と市は案内しています。市内の医療施設は41(うち小児科5)。家賃は、古い賃貸なら3万円程度から、築浅なら5万円から6万円台です※28
- 働く: 市内のほか、車なら大牟田市や久留米市・鳥栖市の周辺、電車なら博多駅の周辺まで、30分から1時間で通えると市は案内しています※29。ルフランのコワーキングスペースは1日220円です※30。カフェと食品加工室は、食品加工組合に入れば1時間220円で使えます※16
- 子育て: 保育料は国の基準の約65%に引き下げ、18歳未満の子どもの医療費を助成、小中学校の給食費を1人月1,000円まで補助、と市は案内しています※31
移住と住まいの支え(2026年9月時点の市のページ)
- お試し訪問: みやま市に隣接しない市区町村に住む18〜55歳の人(同居家族を含む)で、事前に対面かwebで移住の相談をした人が対象です。市内の宿に泊まる1泊目は、住む地域に応じて1人3,000円から22,000円、2泊目は一律3,000円(2泊まで)。ほかに滞在中の交通費の半額(上限1万円・ガソリン代を除く)を補助します※32
- マイホーム取得: 新築20万円・中古10万円、高校生以下の子がいる世帯は5万円を加算。市外からの転入世帯には、電子コイン「みやまんコイン」30万円分が付きます※33
- 移住支援金: 福岡県外から移り住み、条件に合う仕事に就く人が対象で、単身60万円、2人以上の世帯100万円、18歳未満の子1人につき100万円を加算します。条件が細かいので、移住の前の相談を市は求めています※34
人口の推移と年齢別の出入りはみやま市の人口ページに、暮らしのデータはみやま市のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に市の現行ページで確かめてください。人口と世帯は2026年1月1日、働く人の割合は2020年の国勢調査、気温は市の外にある大牟田観測点の日最低気温の平年値(1991〜2020年)です。幸若舞の演目と舞う人は、市が毎年1月に報道機関へ配る案内の予定の欄から数えました。
出典リンク集
本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。