土岐市の小中学校には、粘土を焼く窯がある|焼きものの町への移住を、子どもの図工から考える

公開日: 2026-10-02
土岐市/焼きものの道に入る人を、市がまとめて教える/① 伝習生/② 焼きものに近づく/③ 学校の窯

岐阜県土岐市の陶磁器試験場には、職人の卵を預かる市の決まりがあります。「伝習生の養成期間は、1年とし、毎年4月1日に開始する。」その5つあとの条は、一日の長さを決めています。「伝習生の授業時間は、午前8時30分から午後5時までとする。」※1

焼きものの職人になるには、窯元に住み込みで弟子入りして、何年も下働きをするものだと私は思っていました。

ところが、この市では、市の試験場が教えます。市内で働くつもりの17歳以上の人を「伝習生」として迎え、製造科かデザイン科で1年。同じ決まりには「伝習生の授業料は、免除する。」という一行まであります※1。

では、なぜ市が、職人の卵を自分の建物で預かるのか。

答えは、この市の焼きものが、一つの会社の中では完結しない仕事だからです。市内の製造業360事業所のうち、254が窯業(焼きものの産業)・土石製品の事業所です※2。市は議会で、この業界を「もともと美濃焼業界は複雑な分業体制で成り立ってきた」と説明しています※3。工程を分けて受け持つ会社の、その工程を担う手を、市がまとめて育てる。外から近づく大人には2時間の体験会を開き、市内の子どもは小中学校の窯で毎年粘土を焼きます。

この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、

という3つの柱を、名古屋への近さや暮らしの数字も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この市は、焼きものの手を、どれだけの時間をかけて育てているか。締めくくりに、私の見立てを置きます。

土岐市の陶磁器試験場|職人の卵を1年預かる教室

一つ目の柱は、伝習生の1年です。

試験場は市内の肥田町にある市の施設で、ふだんは頼まれて器の試作を手がけています※4。

伝習生の教室は、その仕事のかたわらで、1958年3月の決まりから続いてきました。決まりが掲げる目的は「本市業界の中堅技術者を養成する」こと。分業で成り立つ業界に、工程を担える働き手を送り出すための場です。決まりの上では、市内で働くつもりの17歳以上の人が対象です※1。

伝習生の1年/毎年4月1日。ろくろと器のある教室で、遠くの学習者が後ろ向きに作業する場面。
図1 伝習生を1年育てる教室(※5)

決まりは、通う人に合わせて直されてきました。2007年9月の議会で市は、伝習生の年齢の制限について、家業の焼きものづくりに戻る人の例として「長男が実家の方へ戻ってきて製陶に携わるにしても、年齢でひっかかってしまう」という声があったと答えています※6。いまの決まりにある年齢の条件は「年齢満17歳以上」だけです※1。

2024年6月の議会の答弁でも、焼きもの業界の人を育てる取り組みの最初に「伝習生育成制度」が挙がっています※7。

職人の学び舎を産地が持つ例は、漆の産地にもあります。福島県の会津若松市には「会津漆器技術後継者訓練校」があり、窓口は会津漆器協同組合です※8。

土岐市で焼きものに近づく|2時間の体験会から、1年の教室まで

二つ目の柱は、外から近づく人の時間です。

最初の入口は、2時間の「やきもの職人体験会」です。対象は「成人の方(市内外問いません。)」で、市の外に住む大人も申し込めます※9。並ぶ体験の一つは、「大量生産用のろくろを使って湯呑作成体験をします。」という動力ろくろ。分業で器をつくる町の、その工程の一つに手で触れる入口です。

その先の教室に、外から来た人はどう入るのか。2010年の議会で市は、条件を「市内に就職、または就業の意思を有する者」と説明し、勤め先から「試験場に送り出していただくことになりますので、事業者さんの協力が必要」と答えました。当時の答えでは、市内の会社に勤め、その会社から1年、教室へ送り出してもらう形でした。1年も人を出せない会社のためには、業界の要望を聞いて講習会を開いている、とも添えています※10。

同じ答弁で市は、それまでの卒業生155人のうち、県外から来た人が16人いたと答えています。部長は「事前に住所を移された方があるかもしれませんが」と断っていて、先に住所を移してから入った人は、この16人に数えられていないかもしれません※10。

職人の道への入口の形は、産地ごとに違います。岩手県の二戸市は、漆を掻く人の後継者を、地域おこし協力隊の制度と、日本うるし掻き技術保存会の研修制度で育てるとしています※11。片や協力隊の任期と保存会の研修、片や市の教室の時間割です。

2時間の体験会/市内外問いません。。手前の湯呑とろくろの奥で、2人の大人が小さな後ろ姿で学ぶ場面。
図2 外から来た人も入った1年の教室(※12)

2016年度、学んでいたのは2人でした。人や後継者を育てることについて、市は「息の長い継続的な展開をしていく必要があろう」と答えています※13。

そこで育った手は、展示で外に出ます。2021年3月の第58回の試験場展では、テイクアウトに向く器の提案や釉薬(うわぐすり)の評価と並んで、「伝習生作品」が展示されました※14。

1958年からの教室の募集は、冬の紙面に載ります。2021年から2025年の広報ときの12月号には、5回とも、翌春から学ぶ伝習生の募集の欄があります※15。資格の一行目はどの年も「市内の陶磁器関連企業に就職または就業する意志のある満17歳以上の方」。決まりの上では「市内に就職又は就業」とだけある勤め先を、実際の募集の欄では「陶磁器関連企業」と書いています。選ぶのは面接です。

土岐市で暮らす一年|学校の窯と、10月の陶器まつり

三つ目の柱は、住む人の時間です。

大人の1年の外でも、この市では焼きものの手が育っています。市の移住案内によると、市内の小中学校には粘土を焼く窯があり、図工や美術の授業で毎年粘土作品をつくります※16。2026年7月の広報には、泉中学校の1年生が地元の陶芸愛好家グループ「陶寿会」に教わり、ろくろでご飯茶碗をつくった記事が載っています。生徒からは「小学生の時にも作ったことがあるけど難しかった」「上手に出来てうれしい」という声が上がりました※17。

学校の窯/毎年粘土作品をつくります。手前に粘土作品、奥に閉じた窯と小さな後ろ姿の子どもたちがいる図工室。
図3 学校の窯で、毎年粘土作品をつくる(※16)

大人の時間割で動く試験場も、秋の2日間は子どもに開かれます。2026年10月24日と25日、「セラテクノ土岐オープンラボ」では、粘土遊びや銅版紙(絵柄を写す紙)貼り、ミニトンネル窯を使った絵付を、子どもから大人まで楽しめると広報は案内しています。同じ2日間は市内の各地でも陶器市が開かれ、広報はそれをまとめて、つながる秋の陶器祭「うつわさがし」と呼んでいます※18。

暮らしの足場は、名古屋の近くにあります。土岐市駅から名古屋駅まではJR中央線で45分。市の移住案内には「名古屋まで通勤・通学されている方が多数いらっしゃいます」とあります※16。

働き方は、伝習生になる道だけに限りません。名古屋に勤めながら、秋の2日間に窯元を回る暮らしも、この市の地図の上にあります。

作る人として根づく暮らしは、北の町にもあります。北海道の中川町では、任期を終えた地域おこし協力隊のうち9人が町に残り、町内の会社に勤める人のほか、木工作家や樹皮細工作家として働く人もいます※19。

私の見立て|土岐市は、焼きものの道に入る人を、市が1年預かる市

モノサシの「どれだけの時間をかけて育てているか」に戻すと、3つの柱はこう並びます。試験場では、市内で働く人を1年、朝から夕方まで預かる。市の外の大人に開いた体験会の先には1年の教室があり、そこには県外から来た人も入ってきた。この市で育つ子どもにとって、粘土を焼くのは毎年の図工や美術の授業の一こまで、秋の2日間には試験場で絵付もできる。

2010年、市は、会社が働き手を1年試験場へ送り出し、市がまとめて教える形だと答えました。2026年3月の議会で市は、美濃焼の業界を「複雑な分業体制で成り立ってきた」と説明しています。会津若松の訓練校、二戸の協力隊と研修、中川町の木工作家。手を育てる時計の目盛りは、町ごとに違います。

私の見立てはこうです。土岐市は、焼きものの道に入る人を、市が1年預かる市です。

この5年、12月の広報ときには、伝習生の募集の小さな欄が毎回載ってきました。2025年12月号の養成期間の行は「令和8年4月1日から」。毎年4月1日に始まる教室の春は、その前の冬、紙面の一行になって次の人を待っています。

私の見立て/市が1年預かる/次の人を待っています。春の窓辺にろくろと前掛けが並び、次に学ぶ人を待つ、だれもいない教室。
図4 次の人を待つ、1年の教室(※15)

土岐市を数字で見たい人へ|人口・通勤・暑さ・住まいの要点

項目 数字
人口 53,471人(2026年1月1日)※20
世帯 24,768世帯(同)
名古屋駅まで JR中央線で45分※16
8月の暑さ 日最高34.1℃(平年値)※21
1月の寒さ 日最低−1.9℃(同)

伝習生と体験会(2026年10月時点の市の決まりとページ)

移住と住まい(2026年10月時点の市のページ)

人口の推移と将来の見通しは土岐市の人口ページに、暮らしのデータは土岐市のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に市の現行ページで確かめてください。本文の伝習生の人数は、2010年と2016年度の時点の議会での市の答えです。

出典リンク集

本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。

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