
「衣服の原料となる綿を育ててみませんか。」
高知県黒潮町のTシャツアート展を案内する町広報に、この呼びかけがあります。絵を飾る展覧会のお知らせに載っていたのは、綿の種を配る期間と場所。2024年は4月20日から5月10日まででした※1。
展覧会に加わるなら、Tシャツにどんな絵を描くかを考える。私は参加の範囲を、もう服になったところから考えていました。
ところが、ここでは会場で種を受け取った人が、土に蒔いて綿を育て、収穫できたら持ってきます※2。集まった綿は国産綿Tシャツの原料に混ぜられ、黒潮町の名前と重さが発表の文章に残りました※3。
では、なぜ、絵を描く展覧会で綿の種を配るのか。
答えは、Tシャツの生地を作る会社が国産綿を増やそうとし、その願いに共感した砂浜美術館が、種を配り、育った綿を持ち寄ってもらい、展覧会のTシャツや衣料品に生かす取り組みを始めたからです※2。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、配る・育てる、持ち寄る、製品になるという3つの柱を、住まいと移住支援の要点も交えて解説します。モノサシは一つだけ。展覧会の布から畑までたどると、どんな作業に加われるか。締めくくりに、私の見立てを置きます。
黒潮町で種を配る・育てる|布を作る会社の国産綿に、美術館が種で応えた
一つ目の柱は、配る・育てることです。毎年5月、砂浜にTシャツが並びます。その会場が砂浜美術館です。砂浜美術館には建物がありません。美しい砂浜そのものが美術館です※2。絵はさまざまでも、布はどれも自然の綿の色を生かした生成り色のオーガニックコットンで、1,000枚近く並んでも不思議と砂浜に馴染み、ひとつの美しい風景になります※2。
その布を作っているのが、アバンティです。日本の衣類の繊維自給率は「ほぼ0%」。これを1%に引き上げようと、国内で綿を育てる「国産綿復活プロジェクト」を続けてきた会社です※3。国内で綿を育てることは、気候変動対策にもつながる。そう考えるアバンティの想いに共感した砂浜美術館も、自分たちで種を蒔いてみることになりました※2。
種まきの時期は、展覧会と同じ5月です。会場で種をプレゼントして、育てて収穫できたら持ってきてもらう、参加型の取り組みです※2。2024年の町広報では、配布期間は4月20日〜5月10日、受け取り先はビオスおおがた情報館内の砂浜美術館事務局でした※1。
図1 配布期間と受け取りから種まきへ(※4)蒔く人に、NPOが伝えたいことがあります。Tシャツがもともと土で育った植物だということ、たくさんの人の手間暇で作られていること。実際に種を蒔いて収穫してみると、沢山の気づきがあり、1枚のTシャツに対する見方がガラリと変わる、とNPOは呼びかけています※2。
黒潮町で綿を持ち寄る|保育所、高校、福祉施設の収穫
二つ目の柱は、持ち寄ることです。蒔かれた種は、一般の参加者のほか、保育所や高校、福祉施設など、色々な場所で育てられています※2。
農薬を使わない畑には、カエルやカマキリ、てんとう虫がいて、綿を外敵から守ってくれる大切なパートナーです。その畑で、小さな子どもから学生、お年寄りまでが、毎日着ている服の元の綿を「初めて見た!」「ふわふわ!」と夢中で収穫します※2。
収穫した綿は、NPOのもとに持ち寄られます。2025年は約20kgが集まり、NPOはこれをTシャツ約24.6枚分に換算しています※2。
持ち寄られた綿には、選別と種の袋詰めという作業が続きます。ここには、また別の人たちが加わっています。地域活動支援センターくろしおと、あったかふれあいセンターの人たちが、NPOから綿の選別と種の袋詰めを頼まれているのです※2。集まった綿は、展覧会のTシャツや衣料品に活用されます。
この綿づくりを仕事にして、黒潮町で暮らす人もいます。2026年3月11日掲載の県のインタビューに登場するNPOスタッフは、神奈川県から高知へ移り、その後黒潮町に住み、綿の栽培やイベントの環境対策に携わっています。町での環境活動について、「自然を大切にする気持ちが流通する町になったらうれしい」と語っています※5。
図2 綿が集まる場所と収穫後の作業(※2)黒潮町の綿が製品になる|預けた綿のポイントでTシャツと交換
三つ目の柱は、製品になることです。黒潮町の綿が使われた製品が、すでにあります。2026年4月24日、アバンティは国産綿を混ぜた「DoCoTToN Tシャツ」を発表しました。原料は、2023年に全国21拠点で収穫した540kgの国産綿。2023年に町で収穫した綿は、発表の文章に「黒潮町の土で大切に育て収穫した19.1kgの国産綿」として、町名と重さまで書かれています※3。
配合は国産綿10%、オーガニックコットン90%。黒潮町の畑の綿は、ほかの産地の綿と混ざって1枚のTシャツになります。このTシャツは、アバンティの自社ブランド、プリスティンのコットンバンクで、通帳に貯まったポイントと交換できる特別な製品です※3。
そのコットンバンクは、国産綿の栽培に個人も加われる仕組みとして、2025年に始まりました。きっかけは、お客さまが持ってきた綿でした。プリスティンは2015年から、店のお客さまや学校、福祉施設に綿の種を配っていました。その種を育てた人たちが、収穫した綿を大事そうに店へ持ってくるようになり、「この綿を活かした製品を作りたい」という思いが生まれたのです。ベランダなどで気軽に育てた綿を預け入れて、「衣服のしあわせな循環」に加わってもらう形が、コットンバンクです※6。
コットンバンクから渡された種で育てた綿を支店に預けると、綿花20gごとに1ポイントが貯まります。通帳は、綿を預け入れたときに渡されます。ポイントに応じて、国産綿が入ったハンカチや靴下、Tシャツなどと交換できます。預けた綿は、プリスティン製品の原料の一部になります※6。
初めての預け入れとなった2025年度に集まった綿は、全国で3,300グラム、コットンボールにして約825個分でした。ベランダや家庭菜園で一年を通して育てた綿が、店に持ち込まれました※6。
預け先の支店は、全国に7つあります。東京の新宿・自由が丘・吉祥寺・丸の内、京都、熊本はプリスティンの店で、残る一つが黒潮町の砂浜美術館です※6。展覧会の会場の種と、この支店をつなぐ動きもあります。2026年5月の展覧会では、アバンティが特別ブースを出して種を渡す予定と発表されていました。ブースで渡した種から収穫した綿は、砂浜美術館を含む支店に預けるとポイントが貯まります※3。
図3 畑からTシャツへの実績と個人の入口(※7)私の見立て|黒潮町は、服の原料を育てる仲間をつくる町
展覧会の布から畑までたどると、加われる作業は途中にいくつもありました。種を受け取った人は蒔き、畑では子どもが摘み、センターの人たちは選別し、預ける人は綿を製品の原料へ送り出します。布を作る会社の願いに、美術館が種を蒔いて応えました。育てる場所は、保育所や高校、福祉施設へと広がり、小さな子どもからお年寄りまでが綿を摘みます。集まった綿の選別や袋詰めには、地域のセンターの人たちも加わりました。出口には、預けた綿が製品の一部になり、通帳にポイントが貯まる仕組みがあります。加わる人は、途中で一人ずつ増えていきました。
図4 種を受け取り、綿を預け、Tシャツと交換する(※8)私の見立てはこうです。黒潮町は、服の原料を育てる仲間をつくる町です。
冒頭の呼びかけの先に、綿を預かる支店があります。全国7つの支店の一つに、建物のない美術館の名前が並んでいます※6。
黒潮町を数字で見たい人へ|人口・住まい・移住支援の要点
住まいを探すときの要点です。
申込書には、希望する住まいの条件に加えて、移住後の生活設計として仕事・収入を記す欄があります。求人情報の提供を希望するかも答えられます※9。
空き家バンクは、利用登録と内覧の日程調整をしてから物件を見る仕組みです※10。
| 住まいの確認 |
申込書の目安※9 |
| 見学件数 |
1日3件まで |
| 時期の選択肢 |
すぐ/半年以内など |
- 書類で登録する場合は、申込書・身分証明書のコピー・直近一年間の納税証明書の原本を提出します。納税証明書は18歳以上の入居予定者全員分が必要で、非課税の人は非課税証明書を出します。オンライン申請では申込書の提出が不要です※10。
- 契約交渉の前には現地内覧が必要です。物件所有者の同意を得て情報提供を受け、契約は所有者と直接交渉します。協議会は仲介しません。所有者の同意を得られない場合、希望する物件の契約交渉ができない場合もあります※10。
移住支援金の要点です。
- 単身60万円、2人以上の世帯100万円。18歳未満の世帯員を帯同して移住する場合は、一人につき上限100万円の加算があります※11。
- 移住元については、原則として直前10年間のうち通算5年以上、東京23区に住むか、条件不利地域を除く東京圏から23区へ通勤していたことが必要です。直前にも連続1年以上の居住・通勤歴が求められ、申請は転入後1年以内、申請日から5年以上住む意思があることなどが条件です※11。
- そのほかに就業、テレワーク、関係人口、起業のいずれかの条件を満たす必要があります。綿栽培への参加だけで対象とは決まりません。短期の転出や対象の仕事を辞めた場合などには返還条件もあります※11。
コットンバンクの預け入れ手順(2026年度)です。対象の綿は、無農薬・有機肥料で、コットンバンクから渡された種だけで育てたものです。収穫したら、ふんわり開いた綿のがくや葉をできるだけ取り除いて持参します。種は入ったままでも預けられます。カビや汚れのある綿は預けられません。登録した人には、預け入れ期間がメールで案内されます※6。
人口の推移と将来推計は黒潮町の人口ページに、暮らしに関するデータは黒潮町のページにまとめてあります。数字は出典と時点を合わせて確かめられます。助成金の金額と条件は年度で変わるため、申請の前に町の現行案内で確認してください。本文の種の配布期間は2024年の案内です。コットンバンクの2026年度の預け入れ期間は、1月15日〜1月29日でした※6。次回の種の配布日と受付期間は、主催者やメーカーの次回案内で確認してください。
出典リンク集