小諸市では、移住して店を開く前に定休日の店を半日借りられる|元床屋で一日だけのカレー屋

公開日: 2026-10-09
小諸市/自分の店の軒先を貸す商人たちの市/①店を開く人を呼ぶ/②町屋を直して/③店を借りる

「半日から可能。」

長野県小諸市の「のきさき」の案内に、こうあります。借りられるのは、ビストロアオクビという飲食店。これから店を始めたい人が、既存の店を使って出店を試す仕組みです※1。

自分の店を開くなら、まず空いた物件を探し、長い賃貸契約を結んでから商売を始める。私の頭にあったのは、そこから動き出す開業でした。

ところが、小諸では、営業している店の店主が、定休日の店を貸しています。飲食店をやりたい人も、物を売りたい人も、その店で試せる。2022年11月24日、市もこの取り組みを知らせました※2。

では、なぜ小諸では、店を持つ前から町の店で商いを試せるのでしょうか。

答えは、この市の商人たちが、店を開きたい人を呼び、企業と町屋の改修を支え、自分の店の定休日まで貸して商いを試す相手になっているからです。

この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、店を開く人を呼ぶ、町屋を直して店が増える、店を持つ前の人に店を貸すという3つの柱を、住まいと冬の要点も交えて解説します。モノサシは一つだけ。店を始めたい人が、町の誰と何を一緒にできるか。締めくくりに、私の見立てを置きます。

小諸市の商人が店を開く人を呼ぶ|空き店舗情報を有楽町へ

一つ目の柱は、店を開く人を呼ぶことです。「のきさき」を動かしているおしゃれ田舎プロジェクトは、2019年10月、地元の商人たちと行政関係者が始めました。不動産の人、商店街の人、改修をする人、料理をつくる人。すでに町で仕事をしていた人たちが、新しく店を始める人の側に回りました※3。

集まった人たちのモットーは「お金をもらわない、使わない、リーダーを立てない」。若い世代が出かけたくなる街へ、自分たちも楽しみながら動く活動です※3。外から来る起業者には、「個ではなく、チームで商売を支え合う」商売をしてみませんか、と呼びかけました※4。

その呼びかけを東京へ運び、2020年1月31日、有楽町で田舎で創業したい人に向けた説明会を開きました。持っていくのは、ネットにも出ていない空き店舗情報。物件のパネル展示に続けて、参加者の考えや要望を聞くグループトークを用意しました※4。実施記録には、約20名が参加し、先に開業した人の声を届けたことが残っています※4。

店を開く人を呼ぶ/空き店舗情報/グループトーク。町屋の絵を掲示した物件紹介のパネルと、テーブルを囲んで話す人々の後ろ姿。
図1 店を開く人を呼ぶ(※4)

商いの案を持つ人を、町のほうから募る。島根県川本町も「弓市ビジネスチャレンジコンペティション」でビジネスモデルを募集し、実現に向けて支えるとしています※5。

小諸市で町屋を直して店が増える|数えていなかった店と、駅周辺の星

二つ目の柱は、町屋を直して店が増えることです。物件を紹介する商人たちに、建物を直す企業が加わりました。2021年5月、プロジェクトと山翠舎賃貸が連携。出店したい人が気に入った物件を企業が家主から借り上げ、場合によっては購入し、改修や事業計画づくりを支える形です※6。

地元側は貸したい家主の相談も受け、空き物件の情報を掘り起こします。北国街道沿いには古民家が建ち並び、建物を残して商いを入れることも、この連携の狙いでした※6。

街道の古い建物を、いま泊まり、買い物をする場所に使う。小諸の旧北国街道では、町屋を改修して店を入れる動きが目立っています※7。岡山県新庄村も、出雲街道の古民家を使った宿「新庄宿 須貝邸」に続けて宿泊施設や店舗を整え、分散型ホテルとして魅力を高める方針です※8。

店が開いていく中で、プロジェクトに取材の質問が届きました。これまで関わって開いた店は何軒か。2022年8月28日のブログに、その答えが残ります。「実は、ちゃんと把握しておらず、、、」。取材を機に、支援した店や、いろいろな形で関わったことをまとめました※9。

それから3年後、2025年の受賞発表資料には、小諸駅周辺の地図に新規出店を示す星が並びます。駅周辺を中心にした過去6年間の新規出店は70店舗以上です※7。古い町屋もその中に含まれ、歴史的建物の活用は19件。飲食店のほか、美容室、雑貨の店、宿泊施設や事務所も載っています※7。

町屋を直して店が増える/古い町屋/新規出店。山の稜線を遠景に、古い町屋を直した店が並ぶ商店街。
図2 町屋を直して店が増える(※7)

この地図には、すでに小諸で商売をしていた人の動きも重なります。同じ発表では、老舗の事業者が新しい事業を始め、新たな店舗の出店が相次いだこと、プロジェクトの支援を介さずとも空き店舗の活用が進んだことが挙げられています※7。

この取り組みは、2025年11月5日、第13回プラチナ大賞で「優秀賞 おしゃれ田舎創造賞」を受けました。受賞団体には、小諸市とおしゃれ田舎プロジェクトの名が並びます※10。2026年2月27日の市の発表にも、この起業者支援と受賞が載っています※11。

小諸市で店を持つ前に店を借りる|定休日のビストロでカレーを売る

三つ目の柱は、店を持つ前の人に店を貸すことです。物件を決めて本店を開く道に加え、短い出店から始める道もあります。2022年11月、市が知らせた「のきさき」は、一日限定や期間限定で既存の店の一部を借り、お試し感覚で出店する仕組みです※2。

貸す側のビストロアオクビのシェフと、COMODOの代表も、プロジェクトのメンバーに名を連ねています※3。

そのビストロアオクビは、旧北国街道沿いの元床屋です。改修してレストランにしても、床屋の鏡とタイルを残しました。赤・青・白のサインポールもそのまま使い、営業時間には回しています※1。

この店を、基本は定休日の日曜日・月曜日に、店主と日を相談して半日から借りられます。食器や調理器具も使えますが、なるべく持ち込むよう頼まれていて、包丁は基本的に持ち込みです。食事を出すほか、物を売る使い方もできます※1。

募集が出たときには、最初の出店も案内されていました。プロジェクトの2022年11月の告知は、第1弾として、11月20日に群馬県下仁田町のカレー店「シモンフッド」がビストロアオクビを借りて出店すると知らせています。下仁田のチャレンジショップでの営業期間を終え、次の展開を準備していた店です※12。

それから10か月ほどたった2023年9月6日、国の地域づくり表彰の審査会で、プロジェクトの小林さんは「のきさき」が生まれた理由を話しました。チャレンジショップでも半年以上店を構えることになり、敷居が高いという先輩起業者の助言を受け、既存の店の時間外や定休日を借りる形にしたのです※13。

同じ発表では、床屋を改修したイタリアン料理店を借りて一日限定のカレー屋を開いた実例も挙げました。多くの人が来店し、昼過ぎには完売したという報告です※13。

店を持つ前に店を借りる/床屋の鏡/一日限定のカレー屋。床屋の鏡とタイルが残る店内、テーブルのカレーと窓の外のサインポール。
図3 店を持つ前に店を借りる(※13)

カレーのような食事に限らず、売りたい品物に合わせて借りる場所を選べます。COMODOは改修会社の事務所と工芸品の販売を兼ねた店で、入口の土間には販売スペースがあります。こちらは1時間から借りる相談ができ、雨の日も使える半屋外の場所です※1。

利用前にはプロジェクト側と面接をし、メンバーも一緒に店主と打ち合わせを重ねて準備します。貸出案内の見出しは「遊び感覚がちょうど良いです。」。利益を求める使い方には向かず、軽い気持ちで試すことを勧めています※1。

お試しの出店を選ぶ人がいれば、本店を構える人もいます。

2025年11月の市の取材に登場する美容室の人は、埼玉から家族で移住しました。たまたま訪れた飲食店でプロジェクトを知り、物件紹介などの支援を受けて美容室を開きました。周りの人が自分のペースを大切に働く姿に影響され、取材の2か月前から週休二日に挑戦しています。「休みが増えました、というか増やしました。」※14

移り住んだ人が、町で自分の商いを始める。北海道中川町も、協力隊を退任して町に定着した人の仕事として、飲食店経営や民泊経営、木工作家などを挙げています※15。

私の見立て|小諸市は、自分の店の軒先を貸す商人たちの市

モノサシの「誰と何を一緒にできるか」に戻ると、町の商人たちは物件の情報を東京へ持参し、改修する企業とも組みました。取材で関わった店の数を尋ねられ、支援した店などをまとめました。そして商人自身が、これから試す人に自分の定休日を渡しています。

川本町の募集、新庄村の古民家の使い道、中川町に残った仕事にも、店の看板を持つ人を町の中に増やしていく姿が見えます。

私の見立てはこうです。小諸市は、自分の店の軒先を貸す商人たちの市です。新しい人に紹介する場所には、商人自身が使っている店も含まれています。

2025年の受賞発表資料にも、お試し出店「のきさきプロジェクト」が載りました※7。借りた店でカレーが昼過ぎに売り切れた実例が、その入口の先にあります※13。冒頭のビストロで借りられる時間は、半日からです※1。

自分の店の軒先を貸す/商人たち/定休日。山の稜線を遠景に、町屋の軒先の小さな店と話し合いに使う木のテーブル。
図4 自分の店の軒先を貸す(※1)

小諸市を数字で見たい人へ|人口・冬・住まいと開業の支え

項目 数字
人口 40,782人(2026年9月)※16
世帯 19,830世帯(同)※16
新規出店 70店舗以上※7
歴史的建物活用 19件※7

人口と世帯は2026年9月1日現在の市の公表値です。新規出店と建物活用は、2025年11月の発表資料に載る、駅周辺を中心にした過去6年間の数字です。

上の助成は2026年度の市の案内で、申請期限は2027年3月31日。予算により早く受付を終える場合があります。住宅補助は2026年11月以降の申請について事前相談の案内もあります。年度で変わる金額・条件・手続きと、最新の受付状況は申請前に市へ確かめてください。

人口の推移と将来の見通しは小諸市の人口ページに、暮らしのデータは小諸市のページにまとめてあります。カレー出店の告知は2022年、実施報告は2023年の審査会での発表です。移住者の働き方は2025年11月の取材時点の話です。

出典リンク集

関連する市町村データ